五本指のマンナ、眠りに

右手の地中海、中世の付け根辺り
ぼっこり窪んだ境界に、ザックリ、ぱっくり内府を建てて
斬り拓(た)く、と―

其処から美しいをんなの吐息が、冬の早朝が、
銀の憂絹(うすぎぬ)、微香を包(くる)んだ鈍色の液体と交じり在っては
得も言われぬ幾重もの祗園を伴い
溢れ出して来たのであった

アフレル反射―

其の奔流は透けてゆき、二対の水母は龍の飛翔
止め処泣く、虜り憑かれて折り重なる狭間に歯を立てては
壊れた刃(やいば)に、朱の銀を汚してをんなは云った―

あふ、ス、イ、ぎん。

ゾッとする重たさと冷たさを
温かい朱色の吐息が、睦交(むつま)じく絡み逢う時、
哀れな男は其の傷口から一日を搾り摂られ
ぽつりと液を唇(くち)から孤慕(こぼ)した

銀は、真夏の昼の水面に墜ちて―
ハモン(ド・オルガン)は啼いた

そして水は、
夜になっていた


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